「もんじゅ」廃炉の先は?2016年09月28日 17:12

 政府は「もんじゅ」を廃炉するが、核燃料サイクルは維持し、今後の高速炉開発は経産省主導で行うことを決めたようである。これまでも「もんじゅ」は動いてなかったし、これから動かすにも時間も金もかかることを考えると、「廃炉」という言葉を使うかどうかは別として実質的に「もんじゅ」は死んでいるも同然だから、実態として原子力政策は何も変わらず、今回起こったことは文科省が経産省に主導権を奪われただけのことである。
 今回の決定で「もんじゅ」が廃炉になれば核燃料サイクルが破綻するという意見もある。しかし、核燃料サイクルのもうひとつの要である六ヶ所村の再処理工場の方も、「もんじゅ」よりはるかに巨額の金をかけても、トラブル続きで工期の延長を繰り返しており、まだ完成していない。こんな状態だから高速炉開発が遅れたり追加予算が必要になったりする程度では燃料サイクルの政策を変えるほどのことではないというのが政府の認識かもしれない。
 またロードマップ的に、実験炉「常陽」、原型炉「もんじゅ」、その次の実証炉と段階を踏むのだから、「もんじゅ」なしに「常陽」で実験しても実証炉の設計の役に立たないとか、「もんじゅ」の段階で失敗したのだから実証炉には行けないのだとかいう意見もあるが、実は原子力の関係者がよく使う言葉である「ロードマップ」なるものの実態はいい加減なものである。「もんじゅ」を設計するときに「常陽」の経験を継承していたとは思えない。「もんじゅ」は「常陽」とは別々にメーカーが設計して、設計ミスを犯している。本来なら旧動燃の技術者が設計してメーカーに図面を渡して製作するべきで、そうすれば技術は発注側で継承されていくが、旧動燃は仕様書だけ書いて、実際の設計・製作はメーカーに丸投げし、その図面のチェックもする能力がなかったといわざるを得ない。でなければ「もんじゅ」であのようなおそまつな設計ミスをするはずがない。つまり「もんじゅ」があろうとなかろうと次は実証炉を作るというのが彼らの体質であるから、「もんじゅ」が廃炉になっても路線が変わらないというのは彼ら的には不思議なことではないのである。
 いっぽう、核燃料サイクルを止めれば貯まり続ける使用済み燃料を原発の敷地から六ヶ所村へ運び出せなくなるし、貯まっているプルトニウムの処分にも困る。現在の原発を運転するためにも核燃料サイクルを止めるとはいえないのである。いやむしろこれこそが本音で、電力会社としては原発の新規建設では採算が取れないから、現在の軽水炉の寿命が尽きるまでできるだけ長く既存の原発を動かして、その後は原子力から撤退する気であるが、それまでは政府には核燃料サイクルを止めないと言っておいてほしいというだけのことかもしれない。
 こんな官庁の主導権争いや電力会社の金勘定からその場しのぎの方針を決めていいのであろうか。もっと根本的に原子力について方針を検討すべきであろう。

 まず、今後も原子力を発電に使うかどうかが問題である。これは国民の判断によるべきで、専門家は国民の判断に必要なデータを示す必要がある。
 次ぎに原発をやめるにせよ続けるにせよ、既に貯まった使用済み燃料をどう処理処分するかの問題がある。
 
 今後も原発を使う場合には、燃料サイクルをウラン・プルトニウムではなく、トリウムサイクルにすべきである。トリウムは使用済み燃料中に現在のウラン燃料の場合のようにプルトニウムやマイナーアクチノイドなどの長寿命の放射性物質が生じにくいので使用済み燃料の処分問題が格段に楽になる。なお、トリウムはそのままでは核分裂しないが、中性子を吸収することでウラン233という、現在原発で使われている燃料のウラン235より軽い核分裂性のウランができるので、これを利用する。これを作るとき同時にウラン232も混在してできるがこれは崩壊して行く過程で強いガンマ線を出すので、トリウムからできるウランは、放射線の遮蔽がなされている発電施設では取り扱えても、核兵器の材料としてはプルトニウムに比べて取り扱いにくく不向きである。既存の原発の寿命が来たら原子力発電をやめるのであれば、トリウムサイクルの開発をする必要はないが、数十年以上原子力発電を続けるのであればトリウムサイクルを開発する時間はある。
 高速炉の研究をする場合には、フランスの高速炉ASTRIDの開発に協力することに反対ではないが、これはあくまで国際共同研究であって、高速炉を作るのであれば日本独自の開発計画をもつ必要がある。中断しているFACTを再開するのも良いと思うが、より積極的にはトリウム炉の研究開発を採り入れるべきである。
 
 使用済み燃料の処理処分については、これまで「もんじゅ」をそのために使うということにしてきたが、それは「もんじゅ」を廃炉にしないための方便のようなこじつけで、「もんじゅ」である必要はない。今回の決定では、そのためには別の高速炉で研究をするというような説明がなされているが、語るに落ちたという感じである。
 そもそも使用済み燃料の処理処分はまだ基礎研究の段階である。その研究用装置としては、臨界状態で動かす必要がある原子炉よりも、未臨界から臨界まで様々な条件で試験ができる加速器駆動システム(ADS)の方が有利である。処理処分の実用機ということではなく、そのような試験研究装置として、「もんじゅ」の敷地と建物等を可能な限り利用して、ADSの建設をすることをすすめるべきである。
 ADSの予備的実験は京都大学原子炉実験所でなされており、より本格的な要素技術開発研究が日本原子力研究開発機構でJ-PARCを利用して行われているので、「もんじゅ」関係の研究者とともにこれらの研究者を結集して本格的なシステムの実現を図ることはできるであろう。 
 地元は「もんじゅ」が廃炉になることに不満だといわれるが、いつまた事故を起こすかもしれない「もんじゅ」にこだわっているのではなく、研究拠点の存続を求めているのだと察する。そのためにも今後原子力発電を続けるにせよやめるにせよ必要な試験研究用装置である加速器駆動システム(ADS)を敦賀に建設するのが、地元の期待に応える最も良い方法であろう。

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