小保方STAP細胞事件のおかしさ2014年04月11日 18:14

 いわゆるSTAP細胞(刺激惹起性多能性獲得細胞)に関する小保方晴子氏らのネイチャー論文は学問的議論を超えて事件となっている。常識的にはこれだけずさんな論文であれば信憑性が疑われるのは当然である。しかし、小保方氏は未熟というよりむしろ常識的な人物ではないのかもしれない。常識的でない人物をどう受け止めるかは難しい。ただ、問題が指摘されてからの諸々の事態の展開は別にして、STAP細胞があるかどうかに関しては、上司の笹井芳樹氏は、刺激惹起性多能性獲得現象は実際にある現象であると述べているようである。そうだとすると小保方論文は、なぜそうなるのかという理由の解明やいろいろなケースについての十分な確認実験は出来ていないが、非常に不思議な現象なので、取りあえず紹介するという段階の第1報という位置づけなのかもしれない。通常は第1報を出す場合も、実際には十分な検証は出来ていて、ただフルペーパーとして書き上げる前にレター論文として速報するという性質のものであるが、バイオ関係は競争が激しく進歩も早いので今回のようなこともあるのかもしれない。以下に他の人が言及していないいくつかの問題点を述べる。
 ネイチャー誌に掲載されることを過度に評価することが生命系では特に多いが、ネイチャーは商業誌であり、商業誌は雑誌が売れるような論文を好むので魅力的な表現を求められる。その結果センセーショナルな反応を引き起こすことになりかねないリスクがある。権威という観点では、もう少しそれぞれの専門の学会が発行する雑誌を大事にしてほしいものである。
 実態が、単に不思議な現象が見つかったことは事実だが、まだ真相究明は出来てないということであれば、ネイチャーに論文が掲載されたというだけで大騒ぎして理研が組織を挙げて宣伝したのは行き過ぎで、静かに次のステップの研究を進めて行きたいというコメントを出すだけにとどめるべきであった。政府や理研の側に、理研の新法人化への思惑が絡んでいたとすれば論外である。
 疑惑が生じてから、バイオ系の研究者が、自分たちは問題なくやっているのに小保方氏が非常識なことをやっていただけという、小保方氏非難のコメントのみを発していることは問題である。かつて原子力関係で国内外の事故が起こったつど、日本ではあり得ないとか、小さな燃料加工会社のミスのせいで電力会社はこんなに安全に気をつけてやっているのに迷惑だという反応をしていたが、実態はその後電力会社が腐っていたことが証明される事態が起こり、とどめは福島原発事故という次第である。バイオ関係者はまず自らの学会の体質に問題が無いかを点検し反省すべきではないかと思う。特にバイオ関係の実験は共同研究とはいっても一つ一つの実験プロセスは一人で行える小規模のものであるからミスが起こりやすいと考えられる。特に活気があり発展が著しい分野では若い人の勇み足が起こりやすい。

大統領の正義と首相の正義2014年04月28日 10:42

 正義は一つではない。しかし問題の解決を戦争で決しようとしたとたんに勝った側の正義がまかり通る。負けた側はもしその結果が気に入らず自分の正義を認めさせようとするのであれば再び戦争に訴えて勝つしかない。これが戦争によって問題を解決する時の掟である。古来人類はそうやって戦争をし続けてきた。
 しかし核兵器が使用された第二次大戦後にヨーロッパでは長年勝ったり負けたりしたドイツとフランスがヨーロッパの滅亡を避けるために和解し、現在のEUを作る歩みを始めた。マクニールは「戦争の世界史」の最後で人類史が世界帝国か人類の絶滅かという時代になったと述べている。EUの試みはまだ成功したとは言えない不安定な状態ではあるが、絶滅を避ける努力であろう。
 とはいえ、世界の現状はいまだ富国強兵を目指す新興国が勢いを増しつつある。今のところの世界秩序は最後の戦争であった連合国側の正義が貫かれている。ニュルンベルグの戦争裁判がおかしいと思うドイツ人がいてもドイツという敗戦国を代表する政治指導者は謝罪し続けなければならない。東京裁判がおかしいと思う日本人がいても日本を代表する政治指導者は謝罪し続けなければならないのが冒頭に述べた掟である。ドイツの指導者はその姿勢を守りつつ次の時代を探っているが、日本の指導者はそれをチャラにしたいらしいと思われている。
 安倍首相は戦後レジームからの脱却を主張する。そもそも「戦後」という、勝ったか負けたか分からない言葉使いがよくない。日本にとっては敗戦後である。首相のつもりでは、いわゆる戦後の左翼的風潮を変えたいということであろうが、世界で戦後レジームと言えば戦勝国の正義を意味する。従ってそれを覆すという姿勢は戦勝国である特に近隣の中国やロシアにとっては許しがたい掟破りに映る。米国も同じ思いであろう。
 琉球新報が日米共同声明に関する記者会見で、オバマ大統領が尖閣列島問題に関して米国の防衛義務を述べたあと「同時に私は安倍首相に直接言った。日中間で対話や信頼関係を築くような方法ではなく、事態がエスカレーションしていくのを看過し続けるのは重大な誤りだと」と発言した最後の「重大な誤り」というところを通訳が「正しくない」と意図的に誤訳して、これを大新聞もそのまま報じたと批判している。大統領はprofound mistakeと言ったらしい。アメリカ人がオーミステイクといって頭を抱えて自責の念に駆られる様を言うのだろうか。いずれにしても根源的な過ちということなのだろう。つまりは「不正義」あるいは「悪」ということであろうが、通訳は「不正義」というのは硬い表現なので「正しくない」と言ったのかもしれない。悪意のある誤訳とまでは言えないかもしれない。しかし、日本で「正しくない」と言われた相手が「正しくないとしても間違いだというわけでもない」という反論をすることは多い。「正しくない」というのは「正解でない」というだけで、100点満点ではないが60点は取れているということも含むと主張できる表現なのだ。
 「悪意」があったかどうか別として、正義はなかなか難しい。むろん戦争によって決着をつければいいとも言えない。